ずっと生き難かった。ため息と深呼吸の備忘録。


by 草子
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

ばあばの店

路地裏の店には、ばあばが居る。ばあばの店だから。
ばあばの店_c0145183_20385660.jpg

ばあばは、コンロを据えたカウンター脇で、椅子に腰かけ、立派なミズの掃除をしている。

つきだしのモズクで地酒を呑みはじめたら、
ばあばの店_c0145183_20391769.jpg

ばあばは、よっこらしょと椅子から降り、手に持っているミズを勧める。
こんな雑草みたいなものはいくらもすまいと、あなどって頼んだら、ことのほかしてしまった。
ばあばの店_c0145183_20393089.jpg

それでも、まあ、せっかくなので、このあたり特産のほたてを注文してみる。
お刺身と焼いたのと。同行者と適当につまむ。
ばあばの店_c0145183_20395331.jpg
ばあばの店_c0145183_20401915.jpg


ばあば。うんめべ? と傍まできて微笑む。
おいしいと答えると、
うちは魚がうんめだぁ
そったら、きんきでも煮てやるっぺか と言い出す。
同行者、あわてて、きんきを断り、はたはたを注文する。
ばあば、きんきのほうがうんめぇがら なんて言いつつ、強引に大きなきんきを出してくる。
同行者、いやいや、はたはたにしてください と踏ん張る。

ばあば、ちょっとガッカリしたふうに、
きれいな女のひとに、はだはだ、煮どげー と言いつけ、よたよたと奥へ引っ込んでしまった。
同行者、ふうと、ため息をつく。きんきは時価。

きれいな女のひとが、ちょっと凹んだ鍋で、はたはたを煮てくれた。
ばあばの店_c0145183_20405652.jpg



変わった造りの店である。
カウンターだけの部屋がふたつ、隣り合わせて壁をぶちぬき、入口には異なる看板を掛けている。
そうして、ばあばとパートさんは、中で両方を行き来している。

隣りの店(?)は、小グループの宴会客らしい。
声がもれ聴こえるなんてもんじゃなく、よそのひとの、ぐらつく後ろ頭がのぞく。TVまで観える。
ばあばの店_c0145183_20413248.jpg

やせた女のひとが、味噌汁の注文を受けてきた。
ばあばの采配。手のかがる安いもんはぁ、でぎねえって断れぇ と斬り捨てる。
聞いてしまった同行者、たいした経営理念だ と感心する。
やせた女のひと、カラのお盆を胸に奥へ消える。

きれいな女のひと、ばばあ... と小さくつぶやく。
路地裏に寄せ集まった店は、戦後の復興時に、自然にできた市場がベースになっている。
ばあばは苦労して店をひとつ開き、苦労して苦労して、女の細腕で店をふたつにした。
それじゃあ、ばあばはエライんですね わたしが言ったら、
きれいな女のひとは、うーん、そういうところはそうかもねぇ と笑った。


戦後復興時…すると、ばあばって何歳!?
同行者、かなり と言って興味なさそうに、はたはたのヒレをコリコリと噛んだ。


にほんブログ村 写真ブログ フォトエッセイへ
ばあばの店、よい店、おすすめの店♪
ごらんいただき ありがとうございます
励ましの応援クリックも どうぞよろしく

Commented by nature21-plus at 2010-03-20 01:53
じいです。
ボロくたになって、ながい記事を書き終えた夜に、こんな店を開けられちまったら「ばあば!酒」って、飲むしかねえべさ!。(笑)
しかし、そういえば、島根にこの手の店ないな~
本質は同じなんだろうけど、どこに行ってもどこか気取っていて…おいら好きになれない。
ともあれ、ジャガイモでもホタテに見立てて酒でも飲むか~!。

Commented by 青い星 at 2010-03-20 05:55 x
いい記事ですね。
新聞か雑誌に載ってもいいんじゃない?
こんな雰囲気のあるお店には、主婦はなかなか行けません。
ばあば、味を出しているね^^
Commented by rollingwest at 2010-03-20 08:59
本州の最果てを訪ねているんですね。
岩木山・白神山・奥入瀬・十和田湖周辺は行ったことがありますが、下北半島や津軽半島はまだ未踏の地です。恐山や十三湖・竜飛崎・大間崎などもこの目で見たいものです。
じょっぱりは津軽名産の辛口のお酒ですね。海の幸も豊富で雰囲気ある店とおもしろいばあばだね。はたはた・きんきの突っ張り合いはまさに「じょっぱり」同士のぶつかり合いだ。(笑)  
Commented by hitomi8114-i at 2010-03-20 13:53
去年の9月頃の青森?この下旬に近くまで行ったこと、思い出してしまいました。
ミズの蒼さに、採って皮を薄~く剥いてさっと茹で、ミズの赤いコブといっしょに即席漬けにしたり、油でサッと炒めたこと、思い出し・・・あぁ、土地の料理だなぁ・・・と浸ってしまいました。
でも、あれが代金が発生する料理だったら・・・たくさん作っちゃいます、わたし(笑)
Commented by as_78 at 2010-03-20 14:07
おはよ♪
いいところだねぇ~♪ おしゃれなドアを開けるよりこういうところが好きだったりする。。。
気取ったところは しんどいな・・・

この間私も古くからあるけど 入ったことのない店にチャレンジしたw
入ってみると意外にこぎれいで・・・もっとあぶらぎってるかと不安だったww
焼き肉屋なんだけど 最近のイメージとは全然違ってた
卓上コンロに直に載せるジンギスカン鍋の様な鉄板
肉もあっという間に火が通るの
無煙ロースターとか気取ってる場合じゃなくて 忙しかったわww
でも・・・同行者は「これが原点」って言ってたわwww
メニューも選びようがないしね
でもばあば風の人がいてね 居心地はよかったわよ♪
Commented by green-field-souko at 2010-03-21 06:43
■管理人さま 執筆、一段落お疲れさまでした。
西堀や古町の奥まった、この手の店、こちらでも消えています。
FCみたいな店は、もう、いいよ~...と思ふ。

>ともあれ、ジャガイモでもホタテに見立てて酒でも飲むか~!。
むふ。「長屋の花見」だ^^
Commented by green-field-souko at 2010-03-21 06:47
■青い星さま 閑な日だったので、書いてしまいました。はずかし^^
新潟市は、雰囲気のある店自体、減ってしまったように思えます。
ここは青森市内なんですが、閉めたらしい店も多かったでした。
そこで生き残っているばあば...すごいよw
Commented by green-field-souko at 2010-03-21 06:56
■RWさま 移動はなかなか大変でした。初めて行ってみて距離感が
わかったのですが、下北・津軽は広くて遠くて、さらに遠いッ!w
でも、だから、いわゆるミニ東京にならずに、これたのではないでしょうか。
もうすぐ東北新幹線が開通するけど、地域が荒れなきゃいいなあ、と思います。
ばあばは青森市内におわしますw 機会があったら是非^^
早めに行っとかないと、会えなくなるかも、です。
Commented by green-field-souko at 2010-03-21 07:17
■一未さま こちらでもミズは春の山菜として食べるんですが、
青森のミズは太くてサクサクしていて、おいしかった~♪ どんぶり一杯いけます^^
フキノトウも似て非なるものだし、種類が違うのか、土壌や気候なのか、
マイルドなんですよねえ。
縄文人はけっこう豊かな食生活だったんじゃないかなー、なんて、ふと思いましたよ。
Commented by green-field-souko at 2010-03-21 07:29
■asさま おはよ^^ うん、いいとこ。ちょっとドキッともしたけどw
asさんは、ばあばの居る、原点的焼肉屋さんだったの。いいね、いいね。
気どった店は疲れるわよね。あと、意味なくモタモタしている店も。
のん兵衛はせっかちなのよ、呑むときはさw
ハイペースで焼ける焼肉屋さん、マッコリと併せてナイスだわ♪
Commented by オドサマ at 2012-08-14 21:18 x
草子さま

こんばんわ。
昨日はブログへのコメント有難うございました。とても、励みになります。もう少し頑張って更新しなければと思いました。

こちらの記事、とても素敵ですね。冒頭のぼやけたばあばの店の入り口・・・じょっぱりのラベル。僕には路地の空気の匂いまでしてきそうで、見入ってしまいます。その感性と表現に、いつも感心というか感嘆というか、すごいなあと・・・拝見している次第です。ニャゴの記事も好きです。

青森駅のそばの長屋的なお店でしょうか。昔は雁木で繋がった小さなお店が線路に沿ってたくさん看板を出していましたが、いまは駅を出た左手と右手の奥まった所にに少し残っていたような気がします。右手だったとしたら、そこは結構おっかない一画で、草子さんには冒険だったし、ばあばは百戦錬磨の強者ということになるのですが(笑)

山菜の利用については、僕は新潟へ来てミズやワラビの粕漬けを初めて食べて、その美味しさに感じ入りました。全国の酒蔵へ冬稼ぎに行っていた父ちゃん達が、お土産に酒粕を持ち帰って喜ばれたのですね。越後杜氏がもたらした文化がまだ、上越には息づいていますよ。新潟の味です。

それでは、また。
Commented by green-field-souko at 2012-08-23 14:53
■オドサマさま こんばんは^^ コメントありがとうございます。
そして、お返事が遅くなり、たいへん失礼いたしました。
連日の現場の暑さと疲れで、かえって眠れないような日が続いています。

>青森駅のそばの長屋的なお店でしょうか。
そうです! オドサマのおっしゃるあたりだと思います。そうそう、長屋のような並びで。
そうすると、知らずに、わたしは、冒険をしてしまったかもしれません(笑)
百戦錬磨の強者...道理で観光客らしき姿が皆無でした。
でも、なんか、可笑しかったですねえ、あの夜は。
今思い出すと、ばあばもお店も、現実にあるものじゃないようにすら思えてしまいます。
ハタハタは大変おいしゅうございました(笑)

仕事で上越方面へ行ったとき、岩魚のなれずしを、ご馳走になりました。
岩魚も、笹も、麹や米も、そして熟成させるための温度も、
どれをとってもその地でないとできないものなのだろうということを感じました。
ほんとうに、食は「文化」ですね。
オドサマの記事は上質。楽しみにしておりますので、更新よろしくお願いします^^

ではでは、また。
by green-field-souko | 2010-03-19 21:10 | 旅と隠遁 | Comments(12)