ずっと生き難かった。ため息と深呼吸の備忘録。


by 草子
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先生はテッポウブチだった




まだ、わたしが幼かった頃、
生活のために猟銃を扱う老人が、はす向かいに住んでいた。
その家は親戚筋でもあったので、よく遊びにも行った。

粗末な造りの古い家で、
しかし、囲炉裏(イロリ)の炉縁(ロブチ)などはつやつやと手入れがよく、
テッポウブチのじいちゃんは、炉縁に湯呑みを置いていた。
じいちゃんの煙管(キセル)の種火の扱いが、わたしには手品のようにおもしろく、
掌に種火をのせて見せてくれるよう、何度も頼んだ。
こどもの好奇心は、きりがない。
しまいには、じいちゃんも面倒くさくなり、
「ほうせばこんだー、なーの手え出せ!」
(そしたら今度はおまえの手を出しなさい)
と手をつかまれ、キャーキャー逃げまわる囲炉裏端には、
クマの毛皮が無造作に置かれていた。

敷物なのか。剥製なのか。
頭がごろんと付いていて、眼のところは空洞だったが、
乾いた鼻は黒々として、表面のシボというのか、模様が見てとれた。
四肢には太い爪。
ごわごわとかたい毛は、嗅ぐと獣のいやな臭いがした。

じいちゃんが死んで、遊びに行かなくなり、
家が建て替えられ、
あのクマはどこへいってしまったのだろう。





前ふりが長くなってしまった。





注連飾りの作り方を教わりながら、なんとなく雑談をしているなかで、
先生(73歳)がテッポウブチだということが分かった。
今この時代に、クマやイノシシを撃って生活しているわけではないが、
趣味のハンティングというよりかは、もうちょっと日常に寄っている。

「ブツ(撃つ)のは、キジだろ、ヤマドリだろ、ウサギだろ」
訊いたら、指を折って数えながら、教えてくれる。
「知ってっか? 昔の武士はなあ、四ツ足は喰わねかったんだよ」
「四ツ足は元気になりすぎっからな」
「ウシ、ブタ、ヒツジ、栄養がありすぎて、よくねえ」
「ウサギはいいんだ。ウサギは二本足の分だっけな」

「最近はブッテ(撃って)ねーなあ」
「テッポウブチは、おんもしぇ(おもしろい)、おんもしぇでたまんね」
「だども、いのちを奪うってのが、ちっと難儀になったんだな」
「病気もってっからな」
「へえ、だめださ、こんげなもん(こんな自分)では」
「昔はビンビンでがった(元気がよかった)んだども、
今な、へえ、たちもしねで、へえ、ピタンピタンと腿にへばりつく」

先生はたいへん愉快そうにワッハッハッ!と笑い、
おまえもウケろ、笑え、と催促するように、わたしの背中をバンバン叩いた。

齢をとろうが、病気で弱ろうが、
しかし、テッポウブチの眼は、稲作農民のそれとは決定的に違うのだな。
おんもしぇでたまんね、と言った眼はテッポウブチだった。
このあたりの聞き取り調査に、もし、万にひとつも関われることがあったなら、
先生に話手のお願いをするのだ、わたしは♪^^


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Commented by Silvergray777jp at 2015-11-14 14:23
 これは、よくぞそのまま書かれました。
 ウケル、ウケル!
Commented by masatomi19 at 2015-11-14 17:41
先生の話に引きこまれ、面白かったですよ^^
また続が聞きたいなぁ~♪
自分の写真の師匠は漁師で被写体狙って猪突猛進!
農耕民族の血が流れてる自分は
狩猟民族の行動力には付いて行くのが、やっとこさでした(笑)
Commented by green-field-souko at 2015-11-14 20:26
■Silvergrayさま ありがとうございます^^
そのまま書くことに、抵抗がないわけではなかったのですが、
聴いた言葉をひたすら拾ってしまった結果です。
わたしではなく、先生がおっしゃったのですよ。念のため。笑
Commented by kotoko_s at 2015-11-14 22:26
こちらでも「テッポウブチ」といいます。
子どもたちの聞き書きで、じいちゃんからテッポウブチの話を聞いてくる小学生がまだいます。いずれ、直接聞くことが出来なくなりますね。

いいですね。率直。相手が草子さんだったからでしょう。
聞くのって、難しいものですものね。
ぜひ先生には長生きしていただいて、お話の続きをしていただきたいです^^

注連飾りの季節なんですねえ。早い早い。
Commented by green-field-souko at 2015-11-15 04:33
■いちご屋さま ありがとうございます^^
もしまた先生に会えるとしたら、一年後の講習会になるでしょうか。
「生きてたら来る」と先生はおっしゃっていました。

あははは。狩猟民族は生きる力が強くて、セクシーで、テンション高くて、いちご屋さんのように、いっしょに行動される方は大変だろうと想像します。
https://www.youtube.com/watch?v=yAt1LBR2pJo&feature=youtu.be
↑すこし前に民俗&発掘現場で人気だった曲です。深いです。笑
Commented by green-field-souko at 2015-11-15 04:55
■ハルさま そちらでもテッポウブチと言いますか。
まだ直接聞けるって、すごいですね。いいなあ。いいなあ。
うらやむという感情がわたしは希薄なんですが、こういうことばかりは、うらやましい!です。

先生の話、周りにえらくウケていました。雰囲気から察するに、
どうも、わたしは、からかわれたのではないかと。笑笑笑

注連飾り部会の会員登録、今年は仮登録としてもらいました。
大風でシラホ被害がひどかったですからね。
来年がんばれるよう、水面下で技術を磨こうと思います。
Commented by fusk-en25 at 2015-11-15 12:18
稲藁をなうことはようしませんが
稲藁を日本から持ってきてもらって
納豆を作ったことはありました。
ヨーグルトを作る機械も買って保温して。
藁の中に入れると納豆菌がうまく働くらしくてその時一回だけ美味しい納豆ができて。
藁がなくなったら失敗続きで止めたけど(今は冷凍のを食べています)
一回注連飾りも作ってみたいなあ。。
Commented by green-field-souko at 2015-11-15 18:42
■Fuskさま 藁に着いている自然の納豆菌、ちゃんと働いてくれたんですね!
稲藁はアレですけど、麦藁はどんなもんでしょう。

注連飾りのもっとも高いハードルは、ヨリを反対に綯うことかもしれません。
ふつうの縄はミギナワ。カミサマのものはヒダリナワ。
反対によじるだけじゃん、と思われるかもしれませんが、
これがどうしてなかなか…汗
Fuskさんは器用になんでもお作りになるから、きっと、ヒダリナワもいけます。
なんとなく、ですけど、確信に近いものを感じますよ^^
Commented by fusk-en25 at 2015-11-15 20:35
麦藁は稲に比べて硬くて空洞が大きすぎるようでした。

おお。神様には左によるのか。
こう言うとこが凄いですね。
Commented by green-field-souko at 2015-11-16 09:17
■fuskさま 海の漁で使う縄も調査をした限りではなぜかヒダリナワで、
わたしたちスタッフは、そこにカミサマを感じたものでした。
by green-field-souko | 2015-11-13 23:49 | 畑でわたしは考える | Comments(10)